人物
・羽村喜一郎(37)会社員
・羽村雅美(36)羽村の妻
・木村紗枝(19)羽村の浮気相手
・国後欽也(19)ホテルのサービスマン・霧島文(32)ホテルの宿泊客
・霧島巴(35)ホテルの宿泊客
【◯レジデンスホテル・客室・ベッドルーム・中(朝)】
ホテルの寝間着を着て眠っている羽村喜一郎(37)。
ドアをノックする音で目が覚める。
羽村:
「今出るよ……」
乱れた寝間着を正しながら、ドアの前へ移動する。
【◯同・客室・前(朝)】
眠気眼で羽村がドアを開けると、サービスマンの制服を着た国後欽也(19)が爽やかな笑顔で立っている。
国後:
「ご注文のベーグルとコーヒーをお持ちしました」
廊下にコーヒーとベーグルの載ったワゴンがある。
羽村:
「誰かの部屋と間違えていない? 俺、パンなんて食べないし」
国後:
「左様でございますか。失礼いたしました」
お辞儀をする国後の背後で、太っている霧島文(32)と霧島巴(35)が話しながら通り過ぎる。
話に夢中になっており、ワゴンに気づかずに倒してしまう。
コーヒーが文と巴の服にシミをつくる。
文:
「きゃあ、今日おろしたばっかりなのに!」
巴:
「ちょっと! あんた! どうしてくれるのよ!」
国後:
「も、申し訳ありません!」
その場面を見ながら、羽村はドアを閉める。
ベッドに備え付けられた時計”9時30分”を見て慌てて着替え始める。
【◯同・客室・洗面室・中(朝)】
急いで顎にクリームを塗り、ホテルの備品である髭剃りを顎に当てる。
羽村:
「いっ!」
血が洗面所に斑点をつくる。
鏡で自分の顎から血が出ているのを確認する。
【◯東京駅・前】
駅前の時計は”10時”を差している。
羽村は辺りを見回しながら、スマホを取り出し、番号を押し、耳に当てる。
羽村:
「もしもし? ごめん、仕事で遅くなるよ。今日中にそっちに着くのは無理そうだ」
【◯羽村家・ダイニング・中】
空のベビーベッド、木馬、未使用の紙おむつ、未使用の粉ミルクが置いてある室内で羽村雅美(36)が張り出たお腹を擦りながら電話をしている。
雅美:
「最近情緒不安定なの。お願い、早く帰ってきて」
【◯東京駅・前】
スマホで電話をしている羽村。
羽村:
「うん、分かってる。なるべく早く帰るから」
電話を切る羽村の腕を、木村紗枝(19)の手が掴む。
紗枝:
「悪い男ね」
紗枝はハート型のピアス、花がらのワンピース、白のミュールを履いている。
羽村:
「可愛い格好だね」
紗枝:
「久しぶりに会える羽村さんの為に、全部買ったのよ。でも、ほら見て」
紗枝はミュールから自分の足を抜き、羽村に見せる。
めくれ上がった絆創膏の下から、傷口がのぞく。
紗枝:
「靴擦れしちゃった」
羽村:
「痛そうだね。そこで休憩して、癒そう」
羽村が指差した先にピンクの看板”トワイライト”ホテルがある。
紗枝:
「もう、羽村さんたら」
肩を寄せ合い、羽村と紗枝はホテルに入って行く。
暗転をする画面。
【レジデンスホテル・ベッドルーム・中(朝)】
ホテルの寝間着を着て眠っている羽村。
ドアをノックする音で目が覚める。
羽村:
「……」
周囲を見回す羽村。
羽村:
「紗枝ちゃん……?」
首を傾げながら、ドアの前へ移動する。
【◯同・ドア・前(朝)】
羽村がドアを開けると国後が爽やかな笑顔で立っている。
国後:
「ご注文のベーグルとコーヒーをお持ちしました」
廊下にコーヒーとベーグルの載ったワゴンがある。
羽村:
「だからさ、誰かの部屋と間違えてるでしょ。俺、パンは食べないって言ったよね?」
国後はきょとんとしている。
国後:
「……左様でございますか。失礼しました」
お辞儀をする国後の背後で、文と巴が話しながら通り過ぎる。
話に夢中になっており、ワゴンに気づかずに倒してしまう。
コーヒーが文と巴の服にシミをつくる。
眉根を寄せる羽村。
文:
「きゃあ、今日おろしたばっかりなのに!」
巴:
「ちょっと! あんた! どうしてくれるのよ!」
国後:
「も、申し訳ありません!」
羽村はドアを閉める。
サイドテーブルに置いてある新聞を手に取り”8月23日”の日付を確認する。
ベッドに備え付けられた時計”9時30分”を見て慌てて着替え始める。
【同・洗面室・中(朝)】
急いで顎にクリームを塗ろうとして、手が止まる。
顎の傷があった箇所を擦る。
目をしばたたき、改めてクリームを塗る。
髭剃りを顎に当てる。
羽村:
「いっ!」
血が洗面所に斑点をつくる。同じ箇所に傷がついたのを確認する。
【◯東京駅・前】
駅前の時計は”10時”を差している。
羽村は辺りを見回しながら、スマホを取り出し、番号を押し、耳に当てる。
羽村:
「もしもし? ごめん、仕事で遅くなるよ。今日中にそっちに着くのは無理そうだ」
眉根を寄せる羽村。
羽村:
「うん、分かってる。なるべく早く帰るから……」
電話を切る羽村の腕を、紗枝の腕が掴む。
びくりとする羽村。
紗枝:
「やだ、どうしたの?」
羽村:
「や、なんでもない。可愛い……格好だね」
紗枝は昨日と同じ格好をしている。
紗枝:
「久しぶりに会える羽村さんの為に、全部買ったのよ。でも、ほら見て」
紗枝はミュールから自分の足を抜き、羽村に見せる。
めくれ上がった絆創膏の下から、傷口がのぞく。
紗枝:
「靴擦れしちゃった」
羽村:
「……痛そうだね。そこで休憩して、癒そう……」
羽村が指差した先にピンクの看板”トワイライト”ホテルがある。
紗枝:
「もう、羽村さんたら」
肩を寄せ合い、羽村と紗枝はホテルに入って行く。
暗転をする画面。
【レジデンスホテル・ベッドルーム・中(朝)】
ホテルの寝間着を着て眠っている羽村。
ドアをノックする音で目が覚める。
勢いよく起き上がり、サイドテーブルにある新聞の日付を確認する。
”8月23日”
羽村:
「……戻ってる」
ふらふらになりながら、ドアの前へ移動する。
【◯同・ドア・前(朝)】
羽村がドアを開けると国後が爽やかな笑顔で立っている。
羽村:
「待て、俺が当てる。ベーグルとコーヒーか?」
国後:
「はい。ご注文のベーグルとコーヒーをお持ちしました」
国後がベーグルとコーヒーを差し出し、羽村は不承不承な態度で受け取る。
お辞儀をする国後の背後に、おしゃべりに夢中になっている文と巴が通る。
羽村:
「おい、危ないぞ」
国後:
「え? あ!」
羽村の視線の先にあるワゴンが文と巴に衝突しそうなことに気づき、慌ててワゴンを移動させる国後。
国後:
「ありがとうございます!」
羽村はベーグルを片手に気分良くドアを閉め、そのままの勢いでベーグルを齧る。
羽村:
「あ……」
ゆっくりと咀嚼をする。笑顔になる羽村。
羽村:
「なんだ、うまいじゃん」
【◯東京駅・前】
駅前の時計は”9時50分”を差している。羽村はスマホを取り出し、番号を押し、耳に当てる。
羽村:
「紗枝ちゃん。悪い。会うのをやめよう」
電話を切り、再び番号を押そうとした時、電話が鳴る。
羽村:
「もしもし? え? 雅美が?」
【◯日本大学医科付属病院・廊下・中(夜)】
複数人のナースが雅美を乗せた台車を取り囲みながら、廊下を走っている。
その後ろを羽村が追い駆けている。
羽村:
「雅美!」
手術室の中へ雅美が消え”手術中”ランプが点灯する。
呆然と廊下に設置された長椅子に腰掛け、頭を抱える羽村。
うつらうつらとし、瞼を閉じる。
【終】
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